女性のライフサイクルは、一生を通して目まぐるしい変化があります。
学校時代は同じ教室で机を並べて、就職して社会人になるところまでは男女ともに生活のしかたには大きな差が出てきません。ところが、結婚をしたり、子供ができたり、転勤で住所を転々としなければならなかったり、家族が年老いて介護が必要になったり、子供が独立して手が離れたり、離婚や死別で伴侶を失ったりと、女性の一生は、さまざまな局面を迎えます。
女性が働くことについて、所得税「配偶者控除」等の国策を通して変遷をみてみましょう。
これまでの日本―専業主婦優遇
時代とともに社会の制度は変わっていくよう柔軟な体制が望まれます。
いま改正の論議がなされている所得税の「配偶者控除」は昭和36(1961)年度税制改正で創設されました。いまから55年度前のことです。わが国が豊かになるため、戦後の日本経済の高度成長を支える労働者に手厚く支援する国策です。納税者(夫)の稼いだ所得から、その配偶者(妻)が行う内助の功の貢献度を評価して、差し引く「所得控除」。妻の「内助の功」を評価しますので、その当時は専業主婦がほとんどの時代であり、政府も女性の活躍の場は家庭で家族を支える「良妻賢母」を前提にした考えであったことがうかがえます。その後何回かにわたって改正があり見直しが行われてきました。現行の配偶者控除は平成6(1994)年改正からのもので、配偶者の所得が年間38万円以下(年間給与収入で103万円以下)となっています。現在の制度になってから、もう22年もたっていますね。この22年で、少子高齢化はより深刻となり、核家族化、非婚・離婚の増加、非正規雇用の増加、女性の働き方も有職主婦が専業主婦の割合を越すなど社会の様相に変化がありました。
現代日本は方針転換中―女性勤労応援
2016年、安倍内閣は「すべての女性が輝く社会づくり」を推進しています。
持続的な日本の経済成長につなげるための「成長戦略」を掲げていて、女性が輝けるように政策で応援していくというものです。
「女性が輝く社会」とは、
すべての女性が、
その生き方に自信と誇りを持ち、
活躍できる社会づくり
(出典)首相官邸 www.kantei.go.jpより
「社会づくり」と言っていることからも、女性が社会に参加することを前提として、政策を推進していくということです。
女性の役割を、専ら家庭で家事・子育て・介護を引き受け家族支える主婦像
—->社会で活躍する=働く女性像 と捉えています。
人口減少の中、現役世代といわれる働き手の人口も減ってきています。人口の約半分を占める女性がみな社会に出て働いてくれれば将来の労働者人口の維持に貢献、人手不足を補えます。
経済の高度成長など、もはや望めない現代。
経済の現状維持・発展のために、どんどん女性にも社会に出て働くことで社会貢献してもらいたいという方針が見えます。
「配偶者控除」は、専業主婦を持つ夫の所得から、「所得控除」を行うことによって、夫の所得税が少なくなるという制度。
政府では、配偶者控除を廃止することが検討されています。菅官房長官のコメントでは、本日のところ、「配偶者控除廃止の見送り、現時点で決まっていない。」とのことですが、将来を見据えて、廃止に向けての検討が進められていくでしょう。
国の財政状況と本音
なぜ国が方針を変えたのでしょうか。その背景には、苦しい国家財政事情があるからです。
日本の政府のおサイフ事情、ご存知ですか?
日頃家計に目が集中して、ご関心がないかもしれませんが、あえてご紹介しましょう。
国の財政状態は、歳入より歳出が多い、大赤字の状態です。
不足金は公債発行で賄うことが続いています。
歳入:
1. 税収入
入ってくるお金のどころである「税金」収入は6割しかありません。
2. 公債収入
足りない分のおよそ4割は公債に依存しています。毎年お金を借り続けている。
歳出: 下記の3つの歳出で全体の7割以上を占めています。
1. 社会保障費 (33.1%)
超高齢社会によって、出ていくお金の中で高い比率を占めているのが「社会保障費」です。
「社会保障費」:年金の支払、介護給付金、医療費
高齢者を支えるためのお金といってもよいでしょう。
2. 公債費 (24.4%)
少しずつ借金の返済もしているが、元本残高が減らずどんどん積み上がっている状況です。
国の借金である公債残高は、国と地方の合計で1,000兆円以上あるといわれています。
3. 地方交付税交付金等(15.8%)
いわば国から地方への仕送りですね。
増え続ける高齢者人口と社会保障費。
増え続ける公債(借金)残高。
なんとか生活の質を落とさずに国を維持するためには、勤労者人口を増やしていく、経済成長とともに国に入る税収を増やしていくのが健全なる道です。
なぜ政府が女性を社会参加させたいのか。
女性が働くことによって、被扶養者の壁から出てきてほしいのです。
働ける現役世代のひとりとして、社会を支えてほしいと期待しているのです。
106万円の壁を超えたら社会保険加入へ
平成28(2016)年10月より、社会保険加入義務付けが厳しくなりました。
下記の条件に該当する者には、社会保険に加入しなければなりません。
1. 労働時間 20時間/週 以上
2. 給与88,000円/月収 以上
3. 今後1年以上勤務が見込まれる
4. 従業員501名以上の会社(大企業)
5. 学生対象外
この制度変更により、従来130万円の壁—>106万円の壁になる?といわれています。
非正規雇用者は、サラリーマンの妻である既婚パート主婦ばかりではありません。
今まで社会保険に加入したかったけれども、やむなく国民健康保険・国民年金に加入し、社会保険に加入できなかった人にとっては朗報です。
働かない方がおトクな制度?
ここでは、夫:会社員・サラリーマン、妻:夫の被扶養者である場合を想定しています。
表中ピンクの部分に該当すれば、サラリーマン夫の「被扶養者」のメリットが享受できます。
あなたは壁を越えて働く? 働かない? どうしますか?
どっちがおトクで、どっちがソンだろう?
現制度では、「配偶者控除」などの税制よりも、社会保険や家族手当が女性の就業に大きな影響を与えていると言われています。
大半のサラリーマンの妻で被扶養者となっておられる方は、妻の分としての社会保険料や税金等は負担をしていません。夫の給与額に応じて、支払う金額が決まっています。
社会保険について、会社員の奥さまが「私の夫が給与の中からわたしの分も払っていますから。」と胸を張っておっしゃられるのを時々耳にします。夫の「被扶養者」になっていることはたしかにわかりますが、ご主人様は奥さま分を一人分上乗せした社会保険料を支払っているわけではありませんのでお間違えのありませんように。夫の給与の金額によって自動的に決められているのです。
健康保険料を払っていなくても、健康保険証がもらえてしまう制度。
年金保険料を払っていなくても、年金受給できる制度。
夫にもしものことがあっても遺族年金があるからだいじょうぶ。
働ける環境にあるけれど、いろいろ徴収されて働きゾンになるのなら働きたくない。
ここに過保護バリアがあるのに、なぜ壁を越えて自ら出ないといけないのでしょうか?
せっかくこの手に得られたサラリーマン妻の特権を手放したくはない。
そう思うのは無理もありません。
「働かない方がおトクな制度」がある限り、就業調整をする人が多いのだろうと想像します。
今後はどうなる?
これだけ財政が逼迫していて、女性の社会参加を期待されている国の情勢。
これまでの時代を生きた女性の先輩方はよかったのですが、これからは女性を守ってきた
「過保護バリア」がなくなっていくことは間違いないでしょう。
働ける環境にあって、本気で働きたい!と思った女性のみなさん。
どうせ働くのなら、大きく壁を越えていくことを目標にしてみたらいかがでしょうか?
・払うものは払いますが、手許資金も大きく残ります。
・経済力があることで余裕と自信が生まれます。
・社会に参加している誇りも持てます。
女性が働く? 働かない? どう生きていくか、ひとそれぞれです。
家族のありかたは、個人がどう生きていくか選択した結果です。
個人の生き方は自由。社会制度のありかたは、個人の選択に中立的であるべきです。
どの道を選んだとしても、働く人に社会がきちんと応えていく制度を強く望みます。
性別に関係なく、個人に対する公平課税を。
公平感のある人的控除を。
教育費を家計に多く依存するならば、子育てをしている納税者には大きな扶養控除を。
国民皆社会保険加入制度、大人として一人分の社会保険料を負担する責任を。
私たちひとりひとりが社会へ果たす責任を考えていきたいものです。